顔面神経麻痺の後遺症|病的共同運動・ワニの涙の専門治療

顔面神経麻痺の後遺症治療|病的共同運動・ワニの涙・顔のこわばりを改善する専門的アプローチについて詳しく解説します。

口を尖らすと、片目が細くなる。
ご飯を食べると、片目から涙が出る。
目を大きく開けようとすると、片方の口角が上がる。

これらは顔面神経麻痺の後遺症が始まっているサインです。放置すると、症状はさらに進行していきます。

治療を続けているのに、なぜ良くならないのか・・・。
本当にこのまま治らないのか・・・。

その答えを知っている専門家が、日本にはまだほとんどいません。

この記事では、その原因と改善方法を詳しく解説します。

なぜ起こる?後遺症の根本原因「迷入再生」のメカニズム

迷入再生|回復の過程で神経が誤った筋肉に繋がってしまう様子を図解

顔面神経麻痺の後遺症は、傷ついた神経が回復する過程で、本来とは違う筋肉に誤って繋がる「迷入再生」により起こります。

口を動かすと目が閉じる「病的共同運動」や、食事中に涙が出る「ワニの涙」、顔がこわばる「顔面拘縮」などが代表的です。自然には治りにくいのが特徴です。

口を動かすと目が閉じる「病的共同運動」の原因

神経のダメージが大きい場合に起こるのが病的共同運動です。

切れた神経が再生する際、本来の目的地ではない別の表情筋に繋がってしまうことが原因です。

発症から数ヶ月後に「目を閉じると口角が引きつる」といった症状が現れます。

食事中に涙がポロポロ出る「ワニの涙」の原因

食事の際に唾液を出そうとすると、反射的に涙が流れる現象が「ワニの涙」です。

これも神経が誤った場所に繋がることが原因です。本来は唾液を出すための神経が、誤って涙を分泌する神経に繋がってしまうために起こります。

もっと詳しく:迷入再生の医学的なメカニズム

病的共同運動の原因は、顔面神経のダメージが重度な場合に生じるワーラー変性とその後の迷入再生(過誤支配)です。

再生する神経線維が元の経路を外れ異なる表情筋を支配することで、複数の表情筋が一塊となって動きます。また、ワニの涙は唾液を分泌させる副交感神経が大錐体神経に迷入再生することで生じます。

さらに顔面拘縮は病的共同運動による主動筋と拮抗筋の同時収縮や、神経核の興奮性亢進により表情筋が持続的な緊張状態に陥ることで発生します。

『顔面神経麻痺のリハビリテーションによる機能回復』(日本病院出版会)

【病的共同運動・顔面拘縮の改善】専門的リハビリテーション

正しいリハビリ例とNG行動例

後遺症を予防・改善する基本は、正しい表情筋の動かし方を再学習するリハビリテーションです。

鏡を見ながらゆっくり小さく顔を動かす「ミラーバイオフィードバック療法」などが有効です。

早く治そうとして顔全体を強く動かすことや、低周波治療は後遺症を悪化させるため避けてください。

鏡を使った「ミラーバイオフィードバック療法」と「触覚フィードバック」

不随意な動きが起きないよう意識し、正しい表情筋の動かし方を学習します。

鏡で視覚的に顔の動きを確認する「ミラーバイオフィードバック療法」が効果的です。

また、目を閉じる動作の際に口角の動きを指で抑える「触覚フィードバック」も併用します。

NG行動:低周波治療や百面相は後遺症を悪化させる

顔の動きが悪いからといって、顔全体を強く動かす運動(百面相)を行うことは逆効果です。

マッサージ器などで低周波の電気刺激を与えることも、誤った神経の繋がりを強めてしまうため絶対に行うべきではありません。

これらは後遺症を悪化させる危険性があります。

間違った治療を続けると、その後の回復をさらに困難にするので、どこで、誰に治療を受けるかが、回復を左右します。

もっと詳しく:病的共同運動を改善する医学的なアプローチ

リハビリの目的は、大脳皮質の可塑性を利用した運動感覚の再教育です。病的共同運動は主動筋と拮抗筋が同時に収縮する現象のため、粗大な筋力強化や低周波通電を行うと迷入再生を促通し拘縮を悪化させます。

そのため、視覚を介したミラーバイオフィードバックや触覚フィードバックを用い、眼輪筋と口輪筋の分離運動を促します。表情筋のストレッチングは神経の過剰な再生を抑制し拘縮を軽減します。

『顔面筋の異常運動(片側顔面痙攣と病的共同運動の臨床)』(金原出版)

【病的共同運動の治療】ボツリヌス毒素療法(ボトックス)

ボトックスとリハビリを組み合わせた相乗効果が改善に効果的である図

リハビリだけでは改善が難しい強いこわばりや共同運動には、ボツリヌス毒素療法(ボトックス)が用いられます。

異常に動いてしまう筋肉に薬を注射し、筋肉を軽く麻痺させて動きを和らげます。

この薬が効いている数ヶ月の間にリハビリを行うことで、さらなる改善が期待できます。

一時的に神経をブロックする効果

異常なこわばりを引き起こす筋肉に注射を行い、筋肉の緊張をほぐす働きにより過剰な動きや顔面拘縮を抑えます。

注射後数日から2週間ほどで効果のピークに達し、顔のこわばりや引きつれが和らぎ、自然な表情を取り戻しやすくなります。

リハビリとの相乗効果で改善を目指す

治療効果は永久ではなく、3〜4ヶ月程度で徐々に薄れていくため反復投与が必要になります。

しかし、筋肉の過剰な緊張が取れている期間に、バイオフィードバック療法などのリハビリを並行して行うことが極めて重要です。

組み合わせることで相乗効果が生まれます。

もっと詳しく:ボツリヌス毒素療法を医学的に解説

A型ボツリヌス毒素はコリン作動性運動神経終末に結合し、アセチルコリンの放出に関与するSNAP-25を切断することで前シナプス終末からのアセチルコリン放出を阻害し、筋弛緩作用を示します。

異常収縮を起こす眼輪筋や大・小頬骨筋などに局所注射を行うことで、病的共同運動や顔面拘縮を対症療法的に抑制します。効果は約3〜4ヶ月持続します。

この期間中にバイオフィードバック療法を並行して行うと、中枢神経系レベルでの再教育が促進され相乗効果が得られます。

『顔面筋の異常運動(片側顔面痙攣と病的共同運動の臨床)』(金原出版)

【病的共同運動の治療】形成外科的手術

選択的筋切除術と選択的顔面神経切断術の図解

ボトックス注射の効果が不十分な場合や反復を避けたい場合には、形成外科的手術によるアプローチがあります。

異常な動きの原因となっている筋肉を部分的に切除したり、誤って繋がった神経を切り離したりする手術で、過剰な顔のこわばりや引きつれを根本的に軽減します。

「選択的筋切除術」でこわばりを改善

病的共同運動の原因となる特定の筋肉を選択的に切除する手術です。

不要な動きを引き起こしている筋肉自体を取り除くため、目を閉じた時に口角が上がってしまうといった過剰な動きやこわばりを直接的に改善します。

注射の反復を望まない方に適しています。

「選択的顔面神経切断術」による連動の遮断

筋肉ではなく、神経そのものにアプローチする手術もあります。

中顔面領域の顔面神経の一部を選択的に切断し、目と口が連動してしまう過剰な収縮を断ち切ります。

同時に、垂れ下がった眉毛を引き上げる手術などを組み合わせることで顔の左右対称性を整えます。

もっと詳しく:病的共同運動の外科的治療

ボツリヌス毒素療法が奏効しない場合や恒久的な治療を希望する症例には、形成外科的手術が適応となります。

選択的筋切除術では、眼輪筋に付着する大頬骨筋、小頬骨筋、上唇挙筋の一部を選択的に切除し、過剰な共同運動や顔面拘縮を軽減します。

また選択的顔面神経切断術(SMFN)により頬骨枝や頬筋枝との交通枝を選択的に切断し、眼と口の連動した過剰収縮を断ち切ります。

同時に眉毛挙上術や上眼瞼形成術などを組み合わせ静的な顔面の対称性も改善させます。

『顔面筋の異常運動(片側顔面痙攣と病的共同運動の臨床)』(金原出版)

【ワニの涙の治療】涙腺へのボトックスと【第4の選択肢】鍼灸治療

鍼灸治療はガイドラインでも推奨される第4の選択肢です。

食事中の涙(ワニの涙)に対しては、涙を分泌する組織に直接ボトックスを注射して涙の量を抑える治療法があります。

さらに、ガイドラインで推奨される「鍼灸治療」は後遺症の不快感を和らげる第4の選択肢として注目されています。専門的な治療により引きつれを和らげます。

涙腺へのボツリヌス注射によるワニの涙治療

食事中に涙があふれるワニの涙には、涙を分泌する主涙腺にボトックスを注射する治療が行われます。

点眼麻酔を用いて局所的に注射を行うことで、涙の過剰な分泌を抑えることができます。この効果も数ヶ月持続するため、日常の強いストレスを大きく軽減します。

ガイドラインでも推奨される「鍼灸治療」の効果

顔面神経麻痺の後遺症治療において、リハビリ、ボトックス、手術に次ぐ選択肢として鍼灸治療があります。

鍼で顔の血流を改善し、特定の周波数で電気を流すことで顔のこわばりを和らげます。

診療ガイドラインにおいても推奨されており、症状緩和に役立っています。

ただし、鍼灸治療の効果は、神経の回復状態を正確に把握した上で行うことで最大化されます。やみくもに鍼をするのではなく、神経がどこまで回復しているかを客観的に確認することが重要です。

もっと詳しく:ワニの涙の医学的な治療を解説

ワニの涙症候群に対しては主涙腺の一つである眼瞼部涙腺へのA型ボツリヌス毒素局所注射が行われます。

点眼麻酔を用いた経結膜的局注により副交感神経節後線維終末からのアセチルコリン放出を阻害し、涙液分泌を持続的(4〜6ヶ月)に抑制します。(眼瞼部涙腺への注射は運動神経終末への注射より効果が長く続く場合があります)

『顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版』では、慢性期における鍼治療は「行うことを弱く推奨する」と明記されています。

50Hzや100Hzの非同期鍼通電療法が後遺症スコアの低下や病的共同運動の改善に有効とされています。

『顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版』(金原出版)
『鍼灸療法技術ガイドⅡ(顔面神経麻痺)』(文光堂)

まとめ:治療を続けても良くならない方へ、諦める前に知ってほしいこと

顔面神経麻痺の発症から時間が経過し、病的共同運動やワニの涙、顔面拘縮といった後遺症が固定化してしまったと感じていても、決して諦める必要はありません。

本記事で解説したように、現在の医療では「ミラーバイオフィードバック療法」による根気強い専門的リハビリテーションをはじめ、「ボツリヌス毒素療法(ボトックス)」や「形成外科的手術」など、具体的かつ効果的な改善アプローチがいくつも用意されています。

また、最新の診療ガイドラインでも推奨されている「鍼灸治療」は、顔のこわばりや不快感を和らげる有効な手段として注目されています。

患者さん一人ひとりの症状の程度や、生活スタイル、治療へのご希望に合わせて、これらの治療法を適切に組み合わせることが最も高い改善効果を生み出します。

しかし、正しい治療を選ぶためには、まず神経の状態を正確に知ることが出発点です。

今の治療に限界を感じている方、後遺症がこれ以上進行する前に、一度神経の状態を客観的に確認してみてください。まずは無料メール相談からお気軽にどうぞ。

顔面神経麻痺の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「耳の検査」で、回復の兆しを探ります。

アブミ骨筋反射を測定する様子

「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」「後遺症が心配」
私たちはそうした不安を抱える患者さんと日々向き合っています。

当院の大きな特徴のひとつが、「アブミ骨筋反射」を確認すること。
顔面神経は、実は耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にも繋がっています。音が鳴った時にこの筋肉が反応するかを見ることで、神経が反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。

この検査には医療機関レベルの専門機器が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。
当院では、見た目や感覚だけに頼らず、こうした「客観的なデータ」をもとに治療方針を立てます。「もう治らない」と感じている方ほど、まず神経の状態を確認してみてください。

参考文献

この記事の医学的根拠として、以下の専門書籍やガイドラインを幅広く参考にしています。

  • 『顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版』(編:日本顔面神経学会 / 出版社:金原出版)
  • 『顔面神経麻痺の診断と治療-初期対応から後遺症治療まで- (PEPARS No.214)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『顔面神経麻痺治療のコツ (PEPARS No.143)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『顔面神経麻痺の治療update (PEPARS No.92)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『顔面神経麻痺のリハビリテーションによる機能回復 (Monthly Book ENTONI No.203)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『顔面神経麻痺を治す (Monthly Book ENTONI No.282)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『顔面神経障害 (CLIENT 21 第9巻)』(編:青柳優 / 出版社:中山書店)
  • 『改訂新版 顔面神経麻痺が起きたらすぐに読む本』(著:栢森良二 / 出版社:PHPエディターズ・グループ)
  • 『顔面神経麻痺診療の手引―Bell 麻痺と Hunt 症候群―2011年版』(編:日本顔面神経研究会 / 出版社:金原出版)
  • 『顔面筋の異常運動(片側顔面痙攣と病的共同運動の臨床)』(編:小林武夫 / 出版社:金原出版)
  • 『動画DVD付 顔面神経麻痺のリハビリテーション 第2版』(著:栢森良二 / 出版社:医歯薬出版)
  • 『顔面神経麻痺のリハビリテーション 2010.12 (Monthly Book Medical Rehabilitation No.126)』(出版社:全日本病院出版会)
  • 『鍼灸療法技術ガイドⅡ』(編:矢野忠 / 出版社:文光堂)